奮闘する鴨ママ

 

梅雨の晴れ間のある日のこと。

机にむかって仕事をしていたら、窓の外で、ガアガアと激しく鳴く鴨の声。

 

わけあって、わたしは鴨語に堪能なので、それが緊急警戒警報であることを即座に理解しました。

窓からのぞくと、住宅街のアスファルト道路を カルガモが疾走しているではありませんか。

大声で騒ぎながらも、飛ばずに走っているだけ。

 

どうしたんだろ。

まだ飛べない若鳥なのかしらと眺めていたら、そのあとを、猫が猛ダッシュで追いかけていきました。

 

↓この方です。

(過日、うちの庭の あけび棚に登ってキジバトを狙っていたのを窓越しに撮影。たぶん前科者)

 


 

猫に追われた鴨は翼をだらりと広げ、いまにも捕まりそうな格好でバタバタ逃げ回り、空き地の草むらに逃げ込みました。

もちろん猫も、草むらへ。

 

あちゃ〜。

つかまっちゃったかなあ。

わたしはハラハラしつつ、ようすを見に出ていきました。

 

草むらは、静まりかえっています。

断末魔の叫びもきこえなければ、鴨肉に食らいついている猫の気配もありません。

 

そのとき、ずいぶん離れたところから低空飛行の鴨がやってきて、わたしの頭上を旋回し、アスファルト道路に降りたちました。さっきの鴨です。

 

あららら、なんでまた舞い戻ってきちゃったの? 迷子?

ていうか、あんた、飛べたのね。なんでさっきは、飛んで逃げなかったのよ?

 

鴨は首をのばして、大きな声で鳴きました。

でも、私の質問にこたえたわけではありません。

ええ、わけあって鴨語に堪能な私は、これも即座に理解しましたとも。

 

通訳してさしあげましょう。

「クワクワクワクワクワ!? 」 すなわち「どこ? あなたたち、どこにいるの?」

 

すると、いくつもの声が一斉にこたえました。

「ピヨピヨピヨピヨ !」 すなわち「ここだよ、かあちゃん! ここにいるよ !」

 

 

道路脇の水路に、卵からかえってまだ数日のヒナが4羽いました。

 

どうやらさっきのペタパタ駆け足と、翼をひきずって逃げたのは、猫の興味をヒナたちからそらすための「偽傷行動」だったようです。

じぶんが傷ついたふりをして、敵をおびきよせる作戦ですね。

話にはきいたことがありましたが、本物を見たのは初めてです。

 

 

ヒナたちは愛らしい声で甘えます。

「ヒヨヒヨヒヨ、ヒヨヒヨヒヨ」すなわち 「かあちゃーん、こわかったよ〜」

 

鴨ママは、優しい声でこたえます。

「クウクウクウ、クウクウクウクウ」すなわち「もう大丈夫よ。さあ、いきましょう」

5羽そろって水路をすいすい泳いでいきました。

めでたし、めでたし〜!

 

 

 

…のはずだったのですが。

 

 

 

その数時間後。

近所の人たちが、水路をのぞいてうろうろしています。

幼稚園や学校帰りの子どもたちとママたち、登下校見守りのおじさん、おじいちゃん、おばあちゃんと、その人数は、増えるばかり。

 

しかし、みなさんの表情は暗い。

さっきより水路の水嵩が減っていて、4羽のヒナがU字孔から上がれないというのです。

ヒナが上がれないから、カルガモママもその場を離れずガアガア鳴いて、ヒナに見本をみせているのかU字孔を出たり入ったりを繰り返すばかり。

 

おそらくカルガモ親子は、水量が豊富な雨の日に、近くの田んぼから、どんぶらこっこと泳いできたのでしょう。

しかし現在、この水路の前にも後ろにも、ヒナたちが自力で上がれる場所はありません。

雨が降るまで待つ?

その前に猫かカラスの餌食になっちゃうよね…。

 

かくして、ヒナ救出作戦がはじまりました。

ブロックや板切れをU字孔の中に入れて行動範囲を狭めていき、足場用の鉄板で設置したスロープから、ヒナを上がらせる計画です。

全部のヒナを捕まえて100mほど離れた田んぼに放せば、鴨ママは後からついてくるはず。

 

共同作業で、わりと手際よく3羽のヒナを網ですくい、バケツに入れることができました。

ヒヨヒヨヒヨヒヨと大騒ぎだけれど、ごめん、ゆるして。

 

ところがこのとき、登下校見守りのおじさんが、たからかに叫びました。

「親もつかまえたぞ〜!」

 

カモとりごんべえ級の腕前に脱帽ですが、大人の野鳥にとって、どれほどの衝撃か…。(>_<)

虫採り網の中で暴れる鴨ママの翼を、おじさんが、むんずとつかむ。

きゃ〜〜〜やめて〜〜〜〜。野鳥の翼を折ったらアウト!

 

私はしゃしゃり出ていき、翼と脚をたたんで抱えこみ、かるく目を覆ってやりました。

こうすると、鳥は落ち着くのです。

諦めちゃうだけかもしれないけど、少なくとも無駄な消耗と怪我を防ぐことはできます。

 

ああ、一刻も早く田んぼに放してあげたい。

けれど残る1羽のヒナが逃げ回り、なかなかつかまりません。

 

鴨ママは、かぼそい声で クゥークゥーと囁くように鳴いていました。

「…みんなぁ、気を、たしかに、もつのよぉ〜 (といいつつ、鴨ママはもう気絶寸前)」

バケツの中の3羽のヒナも ヒィヨ ヒィヨ。「えーん、こわいよぉ。めそめそ」

 

4羽目のヒナをつかまえたのも、カモとりごんべえおじさんでした。お見事。

 

そしてようやく、田んぼにリリース。

 

親子は、どびゅーっ!と高速リニアモーターカーみたいに田んぼの水面をすっ飛んでいき、はるかかなたで、そろって水草をついばみはじめました。

 

やれやれ、こんどこそほんとに、めでたしめでたし。

見守る子どもたちのまなざしの、やさしかったこと。

 

 

そうそう。

わたしが鴨語に堪能なそのわけは、十年ほど前に鴨と暮らしていたためです。

大雨の日に、巣が壊れて水びたしになり、カラスにつつかれていたカルガモの卵を、息子が拾ってきてしまったから。

 

その卵から孵化した2羽のカルガモを放鳥するまでのひと夏を、ノンフィクションに書きました。『カモのきょうだい クリとゴマ』。

 

じぶんでいうのもナンですが、いい本です。

その写真を、ちょいとご紹介しましょう。

 

↓鴨のヒナは、卵から孵ったときに見た生き物を親と思って、ついて回ります。

 だからわたしは、カルガモのお母さんでした。

 仕事中のわたしの注意をひこうと、キーボードの上にきて私をみつめるクリちゃん。

 可愛さMAX♡

 

 

↓けれど野生に返すことを目標として、獣医さんの協力も仰ぎ、せっせと育てました。

 

 

↓自然のなかで生き抜く力をつけさせるべく、お勉強もいろいろさせました。

 カモのお母さんになるって、ほんとうに大変。どっと疲れた夏でした。

 でも教えてもらったことが多かったので、本にしたのです。

 

 

 

案外、あるものですよ、わたしたちのくらしのすぐ傍らにも。

眩しいほどの力強さをもつ野生が。

 

生き物のあたたかさも、つめたさも、糞も、血も、においも、人間とはちがう「ことば」で交わしあうコミュニケーションのことも、

とくに子どもたちには知っておいてほしい。

それはそのまま、きみたちが暮らす地球の豊かさだから。

 

(それにしても、カモにかまけて、仕事ほったらかしの1日でした。。あした、ガンバロ)

 

 

おたすけ会議 4

 

 とき :  入梅前の平日。

 

 ところ :  都心の一等地にある オフィスビルの一室。

           超有名企業をテナントにもつ当ビルのセキュリティ管理は極めて厳しい。 

             ここまで入ることを許される部外者が少ないなか、男女2名のゲストが入室。

 

挨拶もそこそこに、すぐに真剣な表情で商談をはじめる男性ゲスト。

建設重機がびっしりと描かれたノートを鞄からとりだし、彼が希望する特殊な機械について語る。

 

 

そのノートには、国内に点在する小規模メーカーの連絡先も記載されている。

「この機種の、右手後方約30度を下から眺めた写真が欲しい。

 まずはパンフレットを入手してくれませんか。

 できれば関東圏内で実物の写真を撮れるところがあるといいんだけど」

「わかりました。すぐに手配します」

若手社員は素早くスマホになにやら打ち込む。

 

 

しばらくして、会社側の女性上司が腕組みをして難色を示す。

「うーん、ブロロロロ…の迫力がイマヒトツかなあ。

ひとつには、お弁当箱の角がはっきり見えていないせいかしらね」

 

しかしこの指摘に対して、男性ゲストは、きっぱりと抗弁する。

「いや。そもそも角ってもんが無いのよ。このお弁当箱は、小判型だから」

 

一同、ハッとして、うなずく。

「小判型かあ…。たしかに、3歳児のお弁当箱は角型じゃないかも」

「角型だったら男子高校生のドカ弁だもんね」

「でもさ、角がまあるい角型はあるよ」

「ところで、お弁当包みのハンカチタイプって、3歳児には難易度高いのでは?」

「4歳児になると、園で包み方をお勉強するみたいだよ」

しばし、園児のお弁当に関する検証がつづく。

 

さらに、なにかと注文の多い女性ゲストが、奇妙なことを言いだす。

「笛をふいてバッタが通らないように交通規制をしているコビトがほしい!」

 

男性ゲストは目をしばたたき、困惑。

「え、なにそれ。笛をふきながらバッタを止めるってどういうこと?」

 

すると、勘の良い若手社員が やおら立ちあがり、交差点の中央でピーッピッピと笛をふき、きびきびと手信号で車をさばく警官のジェスチャーを実演。

 

「ああ、なるほどね…」

男性ゲストはうなずき、そのポーズをノートに描きこむ。

 

 

 

…そうです。

このへんてこりんな「商談」は、おたすけこびと会議です。

男性ゲストは、絵描きのコヨセさんで、注文の多い女性ゲストは、もちろんわたし。(^o^)/

 

午前11時から午後5時過ぎまで、ランチ中も打ち合わせ続行で、みっちり6時間以上。

おたすけこびとワールドのリアリティを深めるために、総力戦で検討を重ねます。

 

絵本をくりかえし読んでくれる子どもたちが、そのたびになにかしら心ときめく発見をしてくれるようにと願って。

 

 

電子のお絵かき

 

作&絵ですすめている絵童話「ハンカチともだち」。

紙にペンとインクで描いた線画を、スキャナで取り込み、パソコンで合成中です。

 

絵本にしてはだいぶ長め、児童文学にしては短めの本なので、インクは、文字にも使う色の黒に加えて、カラーを1色か2色だけ使います。

 

天使のかいかた」や「カッパのぬけがら」などは、すべてこの方法で作ってきました。

いちばん最初は「ぼくには しっぽがあったらしい」。

 

今から20年前に、絵と文章を 半々の割合で作るかたちの本にしようと、理論社のY編集者にいわれて、手探りではじめたことです。

ちょっと絵本。ちょっと児童文学。ちょっと漫画。

 

夢がむくむく広がりましたが、本を作りはじめると、どこまでを私の手もとで行い、どこからを印刷屋さんにお任せするべきか迷いました。

本にする以上、印刷屋さんに頼むわけですが、完全にできあがった原画をわたして「これを忠実に再現してね」と言うことができないからです。

わたしの頭のなかにあるものを、かたちにして提示できないもどかしさがありました。

 

とりあえず線画を描き、文章はワープロ打ちした紙を切って、糊で貼りつけました。

それから色見本帳の小さなチップで色をきめ、色鉛筆を塗ったトレーシングペーパーを何枚も重ね、テキトーな勘で決めた色の濃度を書き込んだ付箋をいっぱいつけて、印刷屋さんに試し刷りをしてもらいました。

待つこと、一週間。

刷り上がったものをみて「おお〜、想像してたよりいい!」と喜ぶときもあれば、「なんじゃこれ〜」と凹むこともありました。

それを何度もくりかえします。

職人さんの腕と勘に感嘆することもありましたが、やはり無駄が多かったものです。

 

やがて月日は流れて…。

あるとき、デザイナーの森枝雄司さんに言われました。

「もっと、じぶんでできるはずですよ。今ならね」(←森枝さんは、わたしのMacの師匠)

 

いつのまにかパソコンが進化して、一般人でもできる範囲が広がっていたのです。

わたしはパソコンが苦手です。(キッパリ)

クルマの運転と、鉄棒とマット運動と、数学と生タマネギの次くらいに苦手。

でも、作りたい本の想像図につられて、べそをかきながらフォトショップで画像処理をするようになりました。

以来、各方面に多大な迷惑をおかけしつつ、のろのろと進歩中です。

 

今回の大躍進は、電子のペン、ペンタブレットを導入したこと。

電子だろうがなんだろうが、ペンは、ペンでした。少なくともサインペン程度には。

その結果、マウスでお絵かきしていた頃は付き物だった手首の腱鞘炎を未然に防げました。

なんてえらいんだ、ジブン! 

目がしょぼしょぼの梅干しみたいになっても、肩胛骨から肋骨にかけて歪んでいますねと接骨院でいわれても、連日、偏頭痛薬をのんだしても、最新テクノロジーの進化とともに、わたしも進化しているのです! …………たぶん。。

 

 

その真偽は、さておき。

今回、ハンカチチームのアドバイザー、鈴木千佳子さんに選んでもらったテーマカラーは、DIC2009。

ちょっと甘酸っぱい香りのただよう ふんわりピンクが、主人公 はるちゃんの色。

 

そして DIC2136は、副主人公 ミヨンちゃんの色。

クールで目を惹くけれど、やわらかな水色も含む緑です。

 

どの色も、100%で使うのと、50%や10%で使うのとでは、まったく違う色になります。

黒をうすめた灰色を混ぜれば、また違う色になります。

絵の具をまぜて色を作るのと一緒です。

 

 

そこでまずは、それぞれの色の濃度、および、黒をかけあわせた変化がわかる表を印刷所に作ってもらいました。

ここから使いたい色を選ぶので、わたしはこれを「パレット」と呼んでいます。

同時に、絵のテスト刷りもお願いしました。

 

パレットも、テスト刷りも、本番で使う紙に刷ってもらいます。

同じインクでも、紙によって、色が違って見えるからです。

紙の白さによっても違うし、つるつるの紙と、ざらざらの紙でも、発色が異なります。

 

さあ、準備万端。

あとは、テキトーな勘で、やっていくしかありません。(←さいごは、やっぱりコレ (^o^)

 

 

 

おたすけ会議 3

 

3回目の おたすけ会議を行いました。

コヨセさんのラフもカラフルになり、とてもたのしい。

 

なかでも、みんなが大喜びをしたのが、見返しでした。

何種類か描いてきてくれたのですが、その一枚をみて、口うるさいことには自信のある私とウエムラ編集者の口がとまりました。

新人編集者TK氏にいたっては、両手の指先を頬にあててすっかり乙女な表情。

(ちなみにTK氏は、身長189cm 、20代のクールな理系男子ね)

 

三人が発した言葉は「か、かわいい…」「たのしい…」「それ、ぜったいにいい!」

コヨセさんは、まず見返しで、おたすけこびと世界をぐいっと たぐりよせてくれます。

 

七冊目のおたすけこびとは、船。

もちろん、重機を運ぶ カーフェリーです。

 

全国のカーフェリーを調べたコヨセさんが、モデルとして白羽の矢をたてたのは、この船。

青森の かもしか号。

ほら、開口部が、かっこいいんですよ。(^o^)

 

 

コヨセさんは、さっそく青森にとんで乗船し、たくさんの写真を撮ってきてくれました。

上からの構図で写真を撮らなくちゃと タワーにのぼったら、130段ある階段の足元は網状になっていて、下が丸見え。波音とともに揺れる大海原…。

高所恐怖症のコヨセさんが がたがた震えながら撮影してきたという写真が、こちらです。

 

 

ところで。

この、たくさんのラフ。

 

 

裏はかならず、チラシなのです。

コヨセさんから送られてくる封筒も、ほとんどリサイクル。

 

 

ごく自然に身についている「あたりまえのこと」のようです。

ちょっと素敵、でしょ。

 

上野の森 親子ブックフェスタ2019

 

今年も五月晴れの上野公園で、子どもの本のおまつりがひらかれました。

ここにいると、少子化って、なに? 

子どもの本離れって、なんのこと? という気分になります。

 

うきうきと楽しそうな本好き親子はもちろんのこと、保育士さんや先生達、文庫主催の方などが遠くの街からやってきて、たくさんの本を買い求めてくださいます。

お仕事とは関係なく、ただ子どもの本が好きなだけという大人達も!

 

あ、いや。

先生や保育士さんたちも、仕事じゃないかも。

にこにこと自分のお財布をはたいて本を買ってくれていましたね。

「このサイン、子どもたちに見せびらかします」と語る大人げない笑顔に、こちらもニヤニヤしちゃう。

 

そしてほら。

写真のように、かわいい読者たちと  たっぷり お話ができるんですよ。

「こんにちは。お年はいくつですか?」

「……(3才)……」

いや、もう、たまらんわい。(デレッ)

 

かと思えば、

「あのっ、わたし、○○です! 去年もここで、この本と、あの本を買いました。わたしのこと、おぼえてますか!?」

ポシェットの紐を握りしめ、まっすぐな眼差しで問う六年生の女の子に、わたしの心拍数は倍になりました。

そう、下駄箱のかげで、いきなり、かわいい封筒のお手紙をわたされた少年みたいに。

本のなかで、作者のわたしと、読者のあなたは、一対一。

しずかにそっと心を通わせる。そういうものだものね。

ありがとう、うれしかったよ。

 

「のはらひめ」や「天使のかいかた」を読んで育ったという18才と進路の話もできたし、ブログを読んでくださる方と会うこともできました。

 

そんなふうに、いそいそと読者との交流をたのしむわたしの傍らで、コヨセさんはひたすら黙々と……似顔絵描き!

いつの頃からか、上野の森のコヨセさんは子どもたちの似顔絵をかくようになりました。

 

そのためか、リピーターさんが年々増えているような。

「2年前にかいてもらった本と較べるとお兄ちゃん顔になりました」とか「5年前のサインのとき、妹はまだ生まれていませんでしたけど、今回はこの子もお願いします」とか。

たのしい記念になりますよね。

 

いいことよ。

ええ、いいことなんですのよ。

だけど、時間がかかるのよね〜。

 

この日も夏日。

テントの中にいる私たちはいいとしても、長蛇の列に並んでいる方々が気になって、何度もコヨセさんをツンツンつつく わたし。

でも、ちっとも急がない(急げない)コヨセさん。

それが彼の魅力であることも理解して、汗を流しながら待っていてくださる みなさん。

ますます申し訳なくて、仕事一途な職人の親父にかわって頭を下げる下町のおかみさん気分でしたわよ。

 

 

コヨセさんほどではないにしても、午前の部のたかおさんも、時間がかかったなあ…。

たかおさんも、いつの頃からか、プリンちゃんの頭にのせる飾りもののリクエストを受け付けるようになってしまって…。

今年は最初からやる気まんまんで、営業部とともに、こんなサンプルリストを用意。

 

 

リストの中から選ばなくてもいいんですよ。

上野だけに、パンダのリクエストも多くありました。

 

  

 

思い思いに、奇抜な「飾りもの」をリクエストする みなさん。

 

  

 

カエルや、鯉のぼりや、京浜東北線なんていうのもあって、たかおさんは、四苦八苦。

たかおさんのツイッターで、今年の奇想天外大賞が発表されています。ごらんください。

 

 

ふう〜 やれやれ〜 ……の後ろ姿を撮影されていました。(^_^;)

しかもなにげに、お客さまのバッグには  LIFE IS SHORT.  READ MORE BOOKS !

熱いぜ、上野の5月。

 

 

インク、ぽたっ!

 

混乱、きわまっております。

コーヒーを淹れて戻ってきて机の上を見たら、我ながらおかしくなってパチリ。

 

作絵で制作中の『ハンカチともだち』

アリスン・マギー来日対応に追われたため、まるっとふた月ほど遅れての進行。

かなり焦っています。

 

それでも。

手を動かしはじめれば「そんなこと、しらないもーん」のペースでしか進まないものです。

ひとが1日にできることって、かぎりがあるのよね。

遅々として進まないという表現がありますが、そうではなくて、遅々、遅々…と小さな虫が鳴きながら這っていく速度で進んでいくしかない。

 

もとはいえば「おたすけこびと」の画家コヨセさんがしばしば言っていたのです。

「遅々として、進んでいます」って。

以来、わたしの脳内に、チチ、チチ…と泣きながら、いえ、鳴きながら進む虫の図がよくうかびます。

 

いまは 文章だけのレイアウトにあわせて 鉛筆描きの絵にインクを入れていく作業。

ペンの滑りがよいときはきもちいいのですが、なにが辛いって、目が………。

 

ひ弱なわたくしですが、視力だけは人一倍優秀でした。

『これは王国のかぎ』の挿絵を描いたときに視力が落ちたと慌てて眼科にとびこんだら「1.2ありますが、なにか問題でも?」といわれたほど頑健な瞳です。

しかし、それも今は昔。

 

度の違うメガネをずらりと並べて、とっかえひっかえ。そう、ハズキルーペもね。

そうすると見えるんだけど、こんどは偏頭痛になるのです。

肩こりバキバキです。

 

しかも、うわっ……インクが ぽたっ! ( ←ランドセルのところね)

 

弱り目に祟り目。

でもだいじょうぶ。

むかしだったら 泣きながら絵を描き直したところですが、泣かない。

いまは フォトショップがあるんだもーん。

 

そう。

インク入れがすんだら、つぎにはフォトショップによる作画です。

線を整理して、版画のようにレイヤーを分けて色塗りをします。

メガネとっかえひっかえと、眼精疲労頭痛の日々がつづきます。

せめて珈琲はこぼさないようにしなくちゃね。

 

チチ、チチ、チチ……。

 

アリスン・マギー in Japan

 

とうとう、アリスンがやってきました。

といっても、うちにお茶を飲みにきたわけではありません。

まずは、主婦の友社を訪問して、ご挨拶…。

 

 

社内を見学して、ついでに、こんなお茶目なことをして…

 

 

新宿紀伊國屋書店でサイン本を作り…

 

 

大田区千鳥の子どもの本専門店 Teal Green in Seed Villageに移動して…

 

 

 

朗読+ミニトーク+サイン会

トーク内容を移動車中で相談する予定だったのに、ほかの話が弾みすぎて、ぶっつけ本番。

結果的にびっくり裏話がいろいろ聞けたのは、参加してくださった皆さんにはもちろん私にも、おもしろかったですけど。

 

 

翌日は、神保町ブックハウスカフェに 終日カンヅメで メディア取材。

朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、MOE、NHKのインタビュー。

 

 

そして夜にはミニ朗読会とサイン会。

 

 

翌日の午前中は、日本出版クラブホールでのトーク。

会場を拡張し、当初の予定をはるかに上回る方々に、アリスンの文学者としての魅力をご紹介することができました。

 

 

そして夕方には、なんと、小倉優子さん(ゆうこりん)との対談取材!

その合間を縫って、JPICの取材あり、YouTube録画あり。

 

とまあ、時差呆け配慮ほぼ皆無の強行スケジュールで酷使したあと、北陸新幹線に乗って、古都金沢の温泉宿に行きました。

トップの写真は、旅館について、ほっと一息の図です。

 

 

すると、緊張がとけたのでしょう。

桜色の髪のアリスンは、みるみる桜の精になってしまったのです〜。

 

 

でもね、この桜の精は、あんこに目がないのですよ。

みんなでシェアするはずの あんころもちも、パクパク一人で食べちゃうの。

ま、いいけどね、わたしはいつでも食べられるから…。

 

 

学生時代に東アジア研究を学び、中国語に堪能で、名刺をもらえば漢字で名前を覚えてしまうアリスン。

繊細で柔らかな声の朗読と、やさしい眼差しで、多くの人の心をつかみました。

彼女の詩人、そして小説家としての奥行きが「ちいさなあなたへ」「たくさんのドア」などの尽きぬ魅力となっていることも、理解していただけたことと思います。

 

 

とてつもなく忙しい日々でしたが、私が終始感じていたのは、居心地のよさ。

本の奥にある静かな泉のほとりで、わたしたちは、とうの昔に出会っているからという感覚でした。

 

本を書くことも、読むことも、とても個人的な行いです。

心の奥に、ひとりで深く潜っていくこと。

そこで同じ水音に響いた者たちは、そっと手をつないだ者どうしなのかもしれません。

 

たとえ、どれほど遠くに住んでいようと。

一生に一度しか会えなかったとしても。

まだ、会ったことがなくても。

けっして、会うことがないとしても。

 

それが、本の喜び。

 

アリスン・マギーの本のこと

 

アリスン・マギーは、日本ではほぼ「ちいさなあなたへ」「たくさんのドア」の著者としてしか知られていませんが、本国アメリカでは小説家・詩人として評価が高く、幅広いジャンルの文学の作家です。

 

たとえば、ピューリッツァー賞候補となった小説 "Shadow Baby"。

主人公は11歳の少女、名前は Clara winter。

ほんとうは苗字はWinterなのだけど、彼女はいつも「小文字で」と注文をつけます。

口頭で発音されても、それが大文字だったのか小文字だったのか、わかるんですって。

 

赤毛のアンが Anneと最後に e をつけてと言い張ったのに似てほほえましいですが、クララがそうするのは、じぶんの苗字である「冬」を憎んでいるから。

 

クララが産まれた 猛吹雪の日。

当時18歳だった母のタマルは吹雪で立ち往生した車の中で出産をし、クララと一緒に産まれてくるはずだった双子の姉が死産となってしまったから。

以来、母タマルは、死児のことを語らず、クララとその子の父のことも、姿をけした祖父のことも語らないから。

 

クララは、言葉がすき。

じぶんのことを言葉でできている人間というほど鋭敏な言語感覚をもち、語彙も豊富です。

過剰ともいえる言葉を武器に、母から真実を引きだそうと涙ぐましい努力をつづけますが、いつだって母の無言、あるいは直截で容赦のない言葉で問いを断ち切られてしまうのです。

若きシングルマザーとして生きてきた母タマルは、自他に厳しく頑なな女性でした。

 

あるときクララは、近隣のトレーラーハウスに住む一人暮らしの老人と出会います。

祖国を失い、無一物の移民としてアメリカにやってきた老人は金属細工の職人としてつましく生きてきたようですが、とても寡黙で、文字を読めません。

もちろん語彙も貧しいのですが、クララにはわかるのです。彼がどれほどの物事を生きてきたかが。

 

クララは彼の生涯をさまざまに妄想し、あるいは現実との齟齬をしり、やがてじぶんは彼の弟子で、いまは修行中の身であると考えるようになります。

いったい、何の修行でしょう。

ほとんどの人が価値をみいださない物事のなかに possibility of beauty (美しくなる可能性) を探しだすこと。

そして、無関係におもえる断片のあいだに整合性を見いだしていくこと。

それはすなわち、物語を紡ぐことでした。

 

後半、物語は大きく展開し、だれかを崖っぷちで愛することの、胸の奥がしぼられるように痛切な感覚が呼びおこされます。

命をかけて守ろうとすること。

そしてときには、守り切れないということについても。

 

 

 

ああ、どなたか、この"Shadow Baby"を翻訳してくれませんか〜?

クララの心がひどく傷ついたときに、母タマルがクララにしてあげたことを思うだけで、いまも涙がでそう…。

 

でも、それはトークイベントでお話ししようと思っているので、いまは、このへんで。

えへへ。

 

お申し込みは、主婦の友社HPまで。 (^_-) 

http://shufunotomo.hondana.jp/news/n29054.html

 

 

 

 

 

 

黒牛・黒牛・黒牛

 

さとうゆうすけさんの個展「黒」。

「ノロウェイの黒牛」の原画を中心に、西荻窪ウレシカで始まりました

 (26、27はお休みで 4/1まで)

 

 

岐阜からでてきた さとうゆうすけさんと、神戸からでてきた 鈴木加奈子編集者と、都内はどこでも自転車ででていく装丁家の中嶋香織さんと合流し、初日にいってまいりました。

 

「渾身のデビュー作」と評されるのも誇張ではないほど心血をそそいだ絵が額におさまり、できたてほやほやの本の山をぐるりと囲んでいます。

門出を祝うあたたかな眼差しが感じられる展示です。

 

店主さんは「第一作目でこんなに命を削っちゃって、いったい次はどうするつもり?」と、笑っていました。

そう感じてくれる方がいることが、とてもうれしい。

 

大きなファイルも置いてあり、ラフやボツになった絵をじっくり見ることができます。

いやそれどころか、過去の展覧会では額に入っていたはずの絵が、どさっと無造作に重ねて置かれているではないか…。

きゃ〜。いいのか ウレシカ、いいのか さとうさん。

 

それを見た我ら女三人(さとうさんを除く)の反応はというと、ほら、あれですよ。

デパート通路のワゴンセール。

がやがやとおしゃべりをしながら、なんの気なしに手をのばしたものの、しだいに目が真剣になり、やだ、なにこれ、超掘り出し物じゃないの、ついこないだまでプロパー価格だったわよねと、各自、脳内で試着だの計算だのをはじめるため緊張にみちた沈黙がひろがる…みたいな。

いずれにしても今がチャンス、お見逃しなくの必見お宝でございますよ。

 

そして、ふと見あげれば、柱には、こんなものが…。

 

 

ちょっとわかりにくい写真ですが、さとうさんが針金で作った牛の頭部の立体作品です。

ほぼ実物大ね。 (牛の)。

 

さとうさん曰く「針金で空間に一筆書きをするようなもの」なんですって…。

いやあ、おもしろい。

右から左から、角度をかえて眺めては、うなったり、呆れたり、こっそり中に指をいれてみたり…しちゃった (^_^;)

 

さとうさんは、絵に行きづまると、こんな針金遊びをするそうですが、それが彼の絵に奥行きを与えていることはまちがいありません。

 

 

 

そんな さとうゆうすけさんに、加奈子編集者からプレゼント。

なんだか わかりますか?

 

ええ、お酒です。

スコッチウィスキーです。

 

 

そう、黒牛なんです!

 

「ノロウェイの黒牛」の原題は "Black Bull of Norroway" 、スコットランドの昔話です。

なんとまあ、さとうさんがモデルとして選んだ牛と同じ種類の牛ではありませんか。

加奈子さん、えらいっ。よくぞみつけた。あなたは編集者の鑑であるぞ! (?)

 

さとうさん、おつかれさまでした。

完成した本の頁を繰りながら、このスコッチを傾ける酔い心地は、さぞ深いものでしょう。

 

 

おしまいに、わたしが買ってきた絵葉書を。

「ノロウェイの黒牛」の前に試しにかいたという「太陽の東・月の西」の絵もあります。

 

さとうさんが、これからも命を削って作りあげてくれるであろう絵本が楽しみです。

 

 

 

 

 

春の新作まりちゃんたち

 

春の光とともに、松本から、まりちゃん人形の新作が届きました。

 

本物のドレスをきた まりちゃん人形たちは、そもそも 2011年春の安曇野の絵本美術館「森のおうち」での原画展にあわせて、松本の子どもの本専門店「ちいさいおうち」の越高令子さんと読書ボランティアのお仲間たちが企画・制作してくださったものです。

 

わたしは『のはらひめ』の主人公まりちゃんの紙人形原画を描き、越高さんに送りました。

 

 

すると、越高さんとお仲間たちがちくちくとお洋服を縫ってくれました。

絵本にでてくるドレスが次々に縫い上げられ、写真が送られてきました。

 

 

けれども、展示が予定されていたのは、2011年の春から初夏。

準備の最中に、東日本大震災がおきました。

 

松本も、安曇野も揺れました。

それでもみなさんは、もっと被害の大きかった地域のことを考えながら黙々と手をうごかしつづけたそうです。

 

そんな思いのつまった 10体のまりちゃんたち。

お針子さんたちの好みや個性もたのしい、かわいい子ばかり。

ふだんぎのまりちゃんから、ゴージャスプリンセス、人魚姫、十二単などなど…。

 

 

その後、まりちゃん人形たちは被災地をはじめ、全国各地で巡回展示をおこないました。

旅する まりちゃん一座。

作り手の思いが伝わるのでしょう。

まりちゃんたちがいる片隅は、ぱっと明るく穏やかな光に満ちるのです。

 

そして今年の3月11日。

震災から丸8年がたった日の朝に、新作まりちゃん5体が届きました。

絵本にはでてこないオリジナルファッションだそうです。

被災地の新しい未来への祈りが感じられます。

 

これで、まりちゃん人形は15体になりました。

原画展や講演会のとき、これからも、たびたびお伴してもらうつもりです。