ノロウェイの黒牛

 

スコットランドの昔話です。

『ノロウェイの黒牛』は、あまり有名なお話ではありませんが、むすめと黒牛のふしぎな恋の物語は、美女と野獣にも似て とてもドラマチック。

絵画的なシーンがいくつもあります。

 

これを本邦初の絵本にしようと企てた編集者は、鈴木加奈子さん。

挑戦者ですなあ。

世界のむかしばなし絵本シリーズ (BL出版)の一冊となります。

 

 

昔話は生き物です。

長い歳月をかけて口づてに語られ、時代や地域によって変化してきました。

語り手が、その場の気分で大袈裟に盛りあげたり、時の権力を揶揄したこともあったでしょう。

目の前の聴衆へのサービスは重要ですから。

 

そんなふうに野山で自由にくらす生き物のような昔話をだれかが採集し、文章で固定(=再話)したものを、現代のわたしたちは本で読んでいるわけです。

だから同じお話であっても、再話者によって、細部や雰囲気がずいぶん異なります。

 

『ノロウェイの黒牛』の再話も、じつにいろいろ。

主人公のむすめは、つましいくらしの庶民娘バージョンが主流ですが、高貴な姫君バージョンもあります。

悪役の魔女が、洗濯女や、ニワトリを飼うおばさんになっているお話もあります。

むすめが魔女(あるいは洗濯女、あるいはニワトリおばさん)とのかけひきに使う小道具も、さまざま。

それどころか、そもそも牛が黒牛ではなく、赤牛だという物語まで !

赤牛と黒牛のどっちが珍しかったのかが気になって、スコットランドの牧畜事情をしらべてしまったワタクシですが、まあ、牛の歴史はさておき…。

 

今回は、1847年生まれのイギリス女性作家フローラ・アニー・スティールの再話をえらびました。有名なジェイコブズの再話より、心理のひだに焦点をあてた文章で、ちょっと近代的な感じがします。

けれど、このスティール版をベースとしつつも、忠実な翻訳はしないことにきめました。

 

なぜなら、再話者モドキであるわたしにとって、サービスしたい聴衆は、絵本を読む子どもたちだから。

ちょびちょびいじって、絵本のテキストとしてふさわしい文章をめざします。

 

 

もっとも、わたしは一人で語るわけではありません。

絵かきの さとうゆうすけさんとの 共同作業です。

 

さとうさんにとっては、これが第一作めの絵本となります。

すでに根強いファンがいるようで、先日、都内で売られていた絵にはすぐに買い手がついていました。絵本デビューを待ちかねている方も多いことでしょう。

こっくりと深みのある色合い。

グリム的な翳りと奥行き。

そこに日本文化が誇る「カワイイ」風味もくわえた絵は、とても魅力的です。

 

昔話に詳しいさとうさんは、物語を深く理解したうえで、絵本ならではの新鮮な解釈をみせてくれるので、ときどき絵が送られてくるのが とてもたのしみ。

ゆっくり ゆっくり、むかしばなし絵本の世界が醸成されていきます。

 

とおい国からきた とおい時代の物語に、また新しい命を吹きこむことができますように。

 

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