17世紀のアヒルからメッセージ

 

 

 

  「いかなる がちょうも 孤島ではない

   一羽にて 全きものとは なりえない

   すべての命は 大陸の かけらであり

   大いなる大地の ひとひらなのだ」

 

……

うーむ。

意味深長なような。

意味不明のような。

 

ヨーロッパで話題の絵本 "Little Island" の冒頭に記されています。

翻訳作業は、まずここで行き詰まりました。

作品の鍵となりそうだけど、よくわからん…。

 

ジョン・ダック氏が1624年に残した言葉だそうです。

みなさんはジョン・ダックを、ご存知ですか?

私はじぶんの教養の無さをかみしめながら、ネット検索しました。

どんぴしゃヒットはありません。

 

詩句のほうも、どんぴしゃヒットはないものの、似たような文言が絡んできます。

そしてなぜかしきりにヘミングウェイの名前が…。

そういえば、ヘミングウェイの小説『誰がために鐘は鳴る』の冒頭にも詩がありましたね。

 

    " No man is an island, entire of itself, 

            every man is a piece of the continent,

            a part of the main."

 

でも、この詩の作者はヘミングウェイではありません。

1572年生まれのイングランドの詩人ジョン・ダンによるもの。

牧師でもあったジョン・ダンが、戦火の絶えないヨーロッパを憂えて晩年に説教のために書いた詩といわれています。

 

…あら?

もしかして、ジョン・ダックって、ジョン・ダンのパロディ?

 

そのようです。

だから" No man is an island..."が " No duck is an island..."にかわっています。

なんたって、ガチョウとアヒルのお話ですからね。

なぁんだ〜。

 

それにしても、「いかなる人も 孤島ではない」という表現は、かっこいいけど「いかなるガチョウも 孤島ではない」は水にぷかぷか浮いているガチョウを想像しちゃって滑稽ですよね。そこがパロディってことかしらね。

 

 

献辞によれば、著者にこの作品のインスピレーションを与えて励ましつづけてくれたのは、アヒルのベンさんだそうです。

おそらく著者のスムリティさんも、アヒルなのでしょう。

 

いえいえ。

冗談ではなく、本気です。

それというのも、この絵本は、小さな水鳥の島にくらす アヒル vs ガチョウの物語だから。

 

小さな島の豊かさに惹かれて、対岸から 牛、馬、豚など、ほかの動物たちがやってきます。

そのことに危機感を募らせたガチョウは議会で演説をふるって多数派となり、橋を壊してしまうのです。

なにによらず、壊すのって、簡単らしいですよ。

(↓手前のアヒルは、手伝いながらも泣いています…)

 

 

けれども、すっきりといい気分だったのは、最初だけ。

いろんなところに不具合が生じてきます。

そのようすは、とてもユーモラス。

 

  

 

  

 

そして結局、橋を再建することになるのです。

こんどは一気にとはいきません。

すこしずつ、すこしずつ…。

信頼と絆をつくりあげるのには、時間がかかりますから。

まして、いちどこじれた仲なら、よけいにね。

 

 

くすくす、にやにや笑える愉快なおとぎばなしです。

とくに集団で仲違いをしたことのある幼い子には楽しんでもらえるでしょう。

 

でも前回もお伝えしたように、これはイギリスのEU離脱をテーマに作られた絵本なのです。

おなじく小さな島国であり、外国の人達が大勢やってくるようになった日本の私たちにも、いろんな読み方ができそうです。

 

たとえば、子どもといっしょにこの本を読んで「あなたは、アヒル? それとも、ガチョウ?」と問えば、「アヒルにきまってるよ。みんな仲良くしなくちゃ」と答えてくれるでしょう。

ほんとにそうだよね、ずっとそう思ってくれるといいなと深く頷いてしまいます。

でもじつは、ガチョウの気持ちも、わからなくもないのです。

 

風通しのよい、多様性を許容する社会になってほしい。

その願いは変わりません。そのための努力もつづけていくつもりです。

 

いっぽうで、固有の文化はどう変質していくのか。

コンビニとチェーン店ばかりが金太郎飴のようにつづく地方都市の風景のように、失うものがあるのではないか。

言語と教育はどう変化していくのか。

真剣に考えると不安があるのも事実です。

 

白か黒の二択にとびつくまえに、間に存在するグレイの階調を否定しないこと。

あるいは、異なる視点を想定したうえで選びとることが大切なように思います。

 

ふたたび、いいえ、何度でも問いましょう。

あなたは、そしてわたしはアヒル?  それとも、ガチョウ?

 

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