雨のやまない王国。そして空のボタン

 

 

  あるところに、1年じゅう、朝も昼も夜も、雨のやまない王国がありました。

  その国の人たちは、空色というのは灰色のことだとおもっていましたし、

  また星空というものをみたことはなく、  

  もやもやとけむる、にぶい藍色しかしりません。

 

  お天気の話をするときは、

  「きょうは、まろやかな雨ですね」とか

  「今夜は、とんがった雨ですね」

  とかいうぐあいでした。

 

  

『小さな王さまと かっこわるい竜』は、いまから10年前にかいたお話です。

まいにち雨ばかりなので、おもいだして本棚からひっぱりだしてきました。

 

この王国では、お城にある天蓋付き寝台も、傘のかたちをしています。

 

 

この国の人たちは、雨のくらしにうまくなじんでいましたが、ある大雨の日に、

人びととともに堤防を直していた王さまが川に流されてしまいます。

みんなは悲しみ、慰めあいます。

「あの世は、いずれ、だれもがいくところ。

あまりかなしんで心をつぶしてはいけない」

 

そこで、まだ子どもだった王子が王位をついで、小さな王様になりました。

この国では、王位についたお祝いに、人びとに贈り物をするのがならわしです。

さて、なにを贈ればよいものか。

 

このとき、お母さまが良いことを教えてくれました。

「海のむこうには、雨のふらない国もあるそうよ。

そういう国では、空にボタンのような、つめものがしてあるのですって。

昼も夜も、金や銀にかがやいて、それはそれは、きれいなものだそうよ」

 

小さな王さまは、空のボタンをさがして旅にでます。

 

 

大嵐の末にたどりついた「へそ島」は、はたして雨がふっていませんでした。

空が青いなんて、びっくりです。

そしてその空のまんなかに、みつめることさえできないほど明るくかがやく白銀のボタンがありました。

 

けれどもちろん、この「空のボタン」は容易にはとれません。

四苦八苦するうちに、小さな王さまは、へそ島にある火山の火口から、奥へ奥へとおちてしまうのです。

 

 

どこまでもどこまでも落ちていって、ようやくたどりついたのは地の底。

やわらかく細かい灰の砂地は、うっとりするほど暖かく乾いていて、

どっくん、どっくんと、脈打つ音がきこえていました。

 

そこで小さな王さまが出会ったのは、大雨で川に流されたはずの亡き父王。

ただし、ずいぶん年若い子どもの姿をしています。

その横には、さらに幼い子どもがいて、それはなんと、おじいさま王らしい。

その背中にくくりつけられている赤ん坊は、なんとまあ、ひいおじいさま王なのだとか。

 

それなら、ひいひいおじいさま王は、どうなったのか…と、たずねる小さな王さまに、父王は、さらりと答えます。

「ひいひいおじいさま王は、すべてのお役目をおえて、空気のつぶになられた。

はて、いまごろは、どこを飛んでおいでかなあ」

 

 

この妙ちきりんなご先祖様の力をかりて、いえ、ほんとうは、かれ自身がもっていた底力によって、小さな王さまは空の大天井の雨漏りをとめます。

金剛石、瑠璃、瑪瑙、紅玉や碧玉などの宝石を、雨漏りのすきまに埋め込んで。

それが、空のボタン。

満天の星空です。

 

 

 

わたしは雨がすきです。

きもちが内へと流れ、日頃忘れていた人たちや遠く深い物事を、ひたひたと思い出すので。

 

けれど、この雨のために難儀をしいられている人が今年はとても多い。

そろそろだれかが、空の雨漏りをとめてくれないかなあと、おもうのです。

 

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