アリエル号の加工貿易?

 

「ふしぎをのせたアリエル号」は私の最初の翻訳書です。

低学年から読める本でありながら、660ページ。

恍惚とするほど長い物語に私は夢中になりました。

 

ひとことでいえば、海洋冒険ファンタジー。

といっても時代的に木造帆船で、海賊と魔女もでてきます。

人形と人間の変身譚でもあります。

しかも重要な要素は、マザーグースと聖書。

…うーん、やっぱり、ひとことじゃ言えないわぁ。

古典的で、かわいくてユーモラスなのに、人生の苦みや涙の味がスパイシーな深みを添える一冊です。

 

最初の翻訳書がこれだったことには事情があるのですが、とりあえずその前に戯曲の翻訳をしていたことが幸いして、会話文の翻訳は、ほめてもらえました。

地の文には、まっ赤に添削が入りました…。

だって、戯曲って会話文しかないんだもん。

 

どうにかこうにか翻訳がしあがったころ、問題が起きました。

原書には挿絵がほとんどなく、原著者のリチャード・ケネディさんから「日本語版には挿絵を入れてね」とリクエストがあったので、期待の新人画家にお願いしてあったのですが、その方が体調不良で、まさかの降板…。

うろたえる私に、同じくうろたえていたはずの担当編集者米田佳代子がいいました。

 

「この本は設定が複雑なので、かわりの画家をみつけるのは、とても難しい。

現時点で、この本の資料がすべて集まっているのは、あなたの部屋。

この本のことを一番理解しているのは、あなた。

だから描くのよ、あなたが!」

 

米田佳代子をしっている方は驚かないでしょうが、彼女はこの種の突飛で強引な思いつきによって、多くの人々の人生を変えました (…たいていの場合、すばらしい方向に! )。

 

それからはもう、記憶がとんでいるほど大変でした。なにせ刊行が迫っていたので。

でも、描きましたよ〜、小さなカットも含めて百枚以上も。泣。

だって、リチャード・ケネディさんが、小さな絵をなるべくいっぱい描いてほしいって言うんですもの。

まだEメールの無い時代。

いきなり国際電話をかけてきて、ごきげんにいろいろ喋っていたケネディさん…。ふう。

 

 

それから三十年近い歳月が過ぎました。

ただいま「ふしぎをのせたアリエル号」の原書  'Amy’s Eyes' は、電子書籍として復刊されるべく本国アメリカでの作業が進められています。

 

その電子書籍を、ケネディさんは私のイラストを全点掲載するものとして契約をしてくれました。

今年で86歳になるケネディさんとは、メールでやりとりをしています。

 

そのむかし、日本語版のあとがきに彼が寄せてくれたメッセージは…

 

 「一生の親友というものは、なかなかみつかりませんが、本なら別です。

  エイミイやキャプテンのともだちは、みんな、わたしの友だちです」

 

そう、そのとおり。

コメント

この作品に出会った時 表紙絵の美しさに『これは絶対に面白いに違
いない!』と感じました。その勘は的中!面白くて夢中になって読み
生まれて初めてファンレターを書き送ったのが ついこの間のような
気がしますが もう28年もたつのですね。
『この物語には この挿絵以外は考えられない』と思いましたが、作
者のリチャード・ケネディ氏もそう思われたのでしょうね。
アメリカでの復刊 おめでとうございます。

  • chie
  • 2018/03/02 13:21

ほんとうに。わたしにとって、すべてはここから始まったというような一冊です。
chieさんとのおつきあいも。
これからも、年若い「親友」たちを「ようこそ、アリエル号へ」と招待するおてつだいを、どうぞよろしくお願いします。

  • なかがわちひろ
  • 2018/03/03 12:56

電子書籍による復刊おめでとうざいます
イラストがちひろさんの手によるものというのは
実は気づいていなくてびっくりしました
ええ、ええ作品にぴったりな素敵なイラストだとは
ずっと思ってたのですが
良い作品は本当に命が長いのですね
もちろん今でもリビングの本棚にあります
久々にページを開いてみようかな

  • 米田邦彦
  • 2018/05/17 12:18

お久しぶり。よくぞみつけてくださいました。
え〜〜、わたしの絵だって、しらなかったのぉぉぉ。(+_;)
英語版のために新たな絵を描き加えているあいだじゅう、ずっと、いつも以上に、佳代子さんと会話をかわしていました。
ぜひ、アリエル号の航海へ。なんどでもね。

  • なかがわちひろ
  • 2018/05/18 20:46