黒牛の王子は黒髪か

 

スコットランドのむかしばなし絵本『ノロウェイの黒牛』。

魔女の呪いで黒牛にかえられた王子と、土地のむすめのふしぎな恋物語です。

 

 

さとうゆうすけさんが絵を描けるのは土日だけ。

毛の一本一本を描くような絵で丁寧に物語世界を紡ぐ作業は、どれほど大変だったことか。

わたしは遠くで見守るだけでしたが、新たな絵ができるたびに編集の鈴木加奈子さんが文章を組み込んだ画像をこまめに送ってくれたので、ずっと伴走しているような気持ちでした。

 

さて、ようやく、ほとんどの絵がそろいました。

そして装丁家の中嶋香織さんから、表紙のラフが送られてきたのです。

タイトルのこの文字。この色、この形。いいでしょー。

 

登山でいえば、胸突き八丁をすぎて、頂上の景色が ぱあっと開ける瞬間のよう。

さとうさん、ほんとうによくがんばってくださいました。

(ああ、でもまだなんやかんやと細かい作業がありますから倒れないでくださいね…)

 

 

それにしても、昔話を絵本にするのは、なんと難しいことか。

とりわけ、あまり知られていない昔話の場合、原生林の開拓者気分です。

 

昔話の多くは荒唐無稽ですから、絵が図解になってしまうと、とたんに噓っぽくなります。

挿絵なら見せ場だけで乗り切ることもできますが、絵本は、よりくわしく設定を定め、流れに沿って矛盾がないように背景や小道具をそれなりに描きこまなければ成立しません。

その辻褄あわせに気をとられると、物語の勢いが削がれてしまうのです。

やっぱり昔話は、口で語り、耳できいて、むくむくと想像するのがいちばんなのかなと弱気になることもありました。

 

それでも、新たな気づきがうまれることもあります。

 

たとえば、黒牛。

さとうさんがモデルにしたのは、スコットランドの牛、ハイランドキャトルだそうです。

 

これね…↓

 

魔女に呪いをかけられてこんな姿をしていますが、じつは、美しい王子だったのです。

さて、ここで問題です。

どのように美しい王子なのでしょう。

耳できくか、文章だけを読む物語なら、各自が理想の王子を思いうかべればよいのですが、絵本の作り手としては、服装だの年齢だの髪の色だの、いろいろ決めなくてはなりません。

 

こんなに まっ黒な牛なんだもの。

とうぜん、髪も黒くて、瞳も黒い王子だろうと私は思いました。

黒い夜の王子、なんだか神秘的じゃありませんか。

 

ところが、さとうさんが描いた王子の髪は、なんとブロンド!

黒い毛皮のなかから黄金色の少年が現れたら綺麗だろうから…という画家の発想でした。

(目は、牛のときも王子のときも青い瞳)

 

う、うーん、そりゃあ 綺麗だけど…。

王子=金髪碧眼ってステロタイプでは?

白人優位っぽいのは、イマドキどうよ…。

はじめて絵をみせてもらったとき、わたしは首をひねりました。

 

でも結局は、さとうさんの閃きに大きく頷くことになったのです。

画家の直感、おそるべし。

 

それというのも、「ノロウェイ」がノルウェイの古語であるという説をみつけたからです。

これはスコットランドの昔話ですが、スコットランドと北欧は冷たい海を隔ててさほど遠くはなく、金髪碧眼の北欧人が大挙して進出してきた歴史があります。

もしかすると、呪いをかけられた黒牛とは、北欧からやってきて囚われた、あるいは漂泊の王子ではあるまいか。

 

はっ。

てことはつまり、土地に古くからすんでいた娘と、侵略者として憎まれていた異文化の王子の恋物語…!?

 

だからこそ、お話の冒頭で、むすめが「わたしはノロウェイの黒牛と結婚してもいいわ」と軽口をたたくと、ねえさんたちは ぎょっとして、とんでもないと強くたしなめたのかも?

言葉がつうじず、身の毛もよだつ怪物とされていた黒牛を、むすめが理解し、やがて愛するようになったのちも、鉄の靴をはいてガラスの山をこえ、数々の試練とふしぎをのりこえなければ二人が結ばれなかったのは、それゆえだったのかも。

 

あ…。

かなり現代的な国際結婚説に引っぱってしまいましたね。

登場人物たちの髪や瞳、肌の色、服装などを描く必要のある絵本だからこそ導かれた考えではありますが。

もちろん、真偽のほどはわかりません。

昔話は懐が深く、さまざまな妄想の楽しみをうけとめてくれるということでしょう。

 

さとうさんの直感による、絵本ならではの解釈に驚いたところは、ほかにもありました。

またお話しするかもしれませんけど、しないかもしれません。

来春、本ができたら、じっくり頁をめくってさがしてみてください。(^o^)

 

 

コメント